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転倒は「筋力不足」だけが原因ではない

[2026.01.24]

転倒の原因と対策:反射・脳・薬の影響

「歳だから転びやすい」「足の筋力が落ちているから仕方ない」

転倒した後、こんな言葉で片づけられることは少なくありません。しかし実際の転倒は、筋力だけの問題ではありません。

多くの場合、筋出力・反射神経・感覚・脳の判断力、そしてポリファーマシー(多剤併用)が重なって起きています。

 

転倒は“とっさの一瞬”で決まる

転倒は、歩けるかどうかとは別の能力で起きます。

  • つまずいた
  • 足が引っかかった
  • バランスを崩した

この一瞬に必要なのは、「強い筋肉」ではなく、瞬時に反応して体を立て直す力です。

 

筋力より重要な「筋出力」

筋力筋出力は別のものです。

筋力 どれだけ強い力を出せるか
筋出力 どれだけ速く力を出せるか

たとえば

  • 椅子から立てる → 筋力は保たれている
  • つまずいた瞬間に足が出ない → 筋出力が低下している

転倒は、「力が弱い」よりも「間に合わない」ことで起きます。

 

反射神経と感覚の衰えが転倒につながる

人は無意識のうちに、足裏・関節・視覚・内耳(バランス感覚)からの情報を脳で処理し、姿勢を保っています。

この流れが遅れると、足が出る前に体が倒れ、手が間に合わず顔や股関節を打つことがあります。

特に影響が大きいのは、足裏の感覚低下視力低下です。

 

転倒は「脳の問題」でもある

転倒は、単なる運動能力の低下ではありません。

  • 注意力の低下
  • 判断スピードの低下
  • 「ながら歩き」

つまり転倒は、運動 × 神経 × 認知 の複合的な問題です。

 

見逃されやすい大きな原因:ポリファーマシー(多剤併用)

高齢者の転倒で、非常に重要なのに見逃されやすいのがポリファーマシーです。

転倒リスクを高めやすい薬:

  • 睡眠薬・抗不安薬
  • 抗うつ薬
  • 降圧薬
  • 抗アレルギー薬
  • 中枢作用のある鎮痛薬

これらはふらつき・眠気・反射の遅れ・判断力低下を引き起こします。

「足が弱くなったから転んだ」と思われがちですが、実は薬の影響で転んでいるケースは少なくありません。

 

薬の見直し:ポリファーマシー対策

ポリファーマシーの問題は、薬そのものが悪いわけではありません

本当に今も必要か、似た作用の薬が重なっていないか、年齢や体力に合っているかを定期的に見直すことが重要です。

特に「最近よく転ぶ」「ふらつきが増えた」というときは、必ず主治医や薬剤師に伝えるべきサインです。

 

転倒予防は“筋トレだけ”では足りない

転倒を防ぐには、総合的な対策が必要です。

  1. 筋出力を鍛える
    • ゆっくりではなく、素早く動く
    • 軽い負荷でスピード重視
  2. 反射・俊敏性
    • 合図に反応して足を出す
    • ステップ動作
  3. バランス能力
    • 片脚立ち
    • 不安定な姿勢での保持
  4. 足部・足裏ケア
    • 足指を動かす
    • 靴の見直し
    • 足裏感覚の刺激
  5. 環境整備
    • 段差
    • 照明
    • 夜間トイレの動線
  6. 薬の見直し
    • 転倒歴を必ず伝える
    • 多剤併用になっていないか確認

 

まとめ:転倒予防のために

転倒は「筋力が弱いから」ではなく、とっさに動けない体と環境で起きます。そして、薬も大きく関与しています。

転倒は、防げる事故です。そして転倒予防は、将来の寝たきりや骨折を防ぐ最も重要な対策でもあります。

「まだ大丈夫」な今こそ、体・脳・薬を一度見直すことが、いつまでも動ける体づくりにつながります。

 

田中整形外科医院 院長 田中 秀

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