転倒は「筋力不足」だけが原因ではない
転倒の原因と対策:反射・脳・薬の影響
「歳だから転びやすい」「足の筋力が落ちているから仕方ない」
転倒した後、こんな言葉で片づけられることは少なくありません。しかし実際の転倒は、筋力だけの問題ではありません。
多くの場合、筋出力・反射神経・感覚・脳の判断力、そしてポリファーマシー(多剤併用)が重なって起きています。
転倒は“とっさの一瞬”で決まる
転倒は、歩けるかどうかとは別の能力で起きます。
- つまずいた
- 足が引っかかった
- バランスを崩した
この一瞬に必要なのは、「強い筋肉」ではなく、瞬時に反応して体を立て直す力です。
筋力より重要な「筋出力」
筋力と筋出力は別のものです。
| 筋力 | どれだけ強い力を出せるか |
|---|---|
| 筋出力 | どれだけ速く力を出せるか |
たとえば
- 椅子から立てる → 筋力は保たれている
- つまずいた瞬間に足が出ない → 筋出力が低下している
転倒は、「力が弱い」よりも「間に合わない」ことで起きます。
反射神経と感覚の衰えが転倒につながる
人は無意識のうちに、足裏・関節・視覚・内耳(バランス感覚)からの情報を脳で処理し、姿勢を保っています。
この流れが遅れると、足が出る前に体が倒れ、手が間に合わず顔や股関節を打つことがあります。
特に影響が大きいのは、足裏の感覚低下と視力低下です。
転倒は「脳の問題」でもある
転倒は、単なる運動能力の低下ではありません。
- 注意力の低下
- 判断スピードの低下
- 「ながら歩き」
つまり転倒は、運動 × 神経 × 認知 の複合的な問題です。
見逃されやすい大きな原因:ポリファーマシー(多剤併用)
高齢者の転倒で、非常に重要なのに見逃されやすいのがポリファーマシーです。
転倒リスクを高めやすい薬:
- 睡眠薬・抗不安薬
- 抗うつ薬
- 降圧薬
- 抗アレルギー薬
- 中枢作用のある鎮痛薬
これらはふらつき・眠気・反射の遅れ・判断力低下を引き起こします。
「足が弱くなったから転んだ」と思われがちですが、実は薬の影響で転んでいるケースは少なくありません。
薬の見直し:ポリファーマシー対策
ポリファーマシーの問題は、薬そのものが悪いわけではありません。
本当に今も必要か、似た作用の薬が重なっていないか、年齢や体力に合っているかを定期的に見直すことが重要です。
特に「最近よく転ぶ」「ふらつきが増えた」というときは、必ず主治医や薬剤師に伝えるべきサインです。
転倒予防は“筋トレだけ”では足りない
転倒を防ぐには、総合的な対策が必要です。
- 筋出力を鍛える
- ゆっくりではなく、素早く動く
- 軽い負荷でスピード重視
- 反射・俊敏性
- 合図に反応して足を出す
- ステップ動作
- バランス能力
- 片脚立ち
- 不安定な姿勢での保持
- 足部・足裏ケア
- 足指を動かす
- 靴の見直し
- 足裏感覚の刺激
- 環境整備
- 段差
- 照明
- 夜間トイレの動線
- 薬の見直し
- 転倒歴を必ず伝える
- 多剤併用になっていないか確認
まとめ:転倒予防のために
転倒は「筋力が弱いから」ではなく、とっさに動けない体と環境で起きます。そして、薬も大きく関与しています。
転倒は、防げる事故です。そして転倒予防は、将来の寝たきりや骨折を防ぐ最も重要な対策でもあります。
「まだ大丈夫」な今こそ、体・脳・薬を一度見直すことが、いつまでも動ける体づくりにつながります。
田中整形外科医院 院長 田中 秀
