メニュー

野球肘の話

[2025.12.31]

野球肘:投げられるけど痛くない、それが一番怖い話

 

「投げたあと、ちょっと肘が気になる…」

そう言って来院したのは、小学6年生のピッチャー。痛みは軽く、キャッチボールもできる。試合にも普通に出ている。

でも、検査をすると――肘の中では、すでに異常が始まっていました。

 

野球肘とは

野球肘というと、

  • 投げすぎ
  • 使いすぎ
  • 成長痛

そんなイメージを持たれがちです。

でも実際は、「成長途中の肘が、投球の力に耐えきれなくなった状態」これが野球肘の本質。

成長期の骨は、まだ完成しておらず、やわらかい。

そこに「全力投球」という大人と同じ負荷が、何百回、何千回とかかる。それが野球肘です。

 

投球時に肘に何が起きているのか

投球動作では、肘に3つの力が同時にかかります。

  • 内側:強く引っ張られる
  • 外側:押しつぶされる
  • 後ろ:骨同士がぶつかる

同じ「1球」でも、肘の中ではまったく違うダメージが起きています。

この負担が積み重なり、骨・軟骨・靭帯に障害が起こります。

 

野球肘の種類

野球肘は、大きく3つに分かれます。

内側の野球肘

もっとも多いタイプです。

  • 肘の内側が痛い
  • 押すと痛い
  • 投げたあとに違和感が出る

成長期では、骨が引っ張られてはがれること(剥離骨折)もあります。

外側の野球肘(特に注意が必要)

ここが、今日一番伝えたいところです。

外側の野球肘は、初期ではほとんど痛みがありません。

  • 少し違和感がある
  • なんとなく気になる
  • でも投げられる

この状態で進行すると、骨や軟骨が壊れていき、元に戻らなくなることがあります。

「痛くなってから休めばいい」では、間に合わないケースがあります。

これが、外側型野球肘の怖さです。病名は、上腕骨小頭の離断性骨軟骨炎(OCD)

後ろの野球肘

肘を伸ばしきる瞬間に、骨同士がぶつかって起こります。

  • ボールを離す瞬間に痛い
  • 肘の後ろがズキッとする

高校生以上に多く見られます。

 

「休めば治る」は本当か?

答えは、「半分は正解、半分は不正解」です。

確かに、早期であれば休むことで治る野球肘もあります。

でも、

  • フォーム
  • 体の使い方
  • 股関節や体幹の硬さ

これらが変わらなければ、再発します。

肘は、「結果が出ている場所」であって、「原因そのもの」ではないことが多いのです。

 

見逃されやすいサイン

野球肘は、はっきりした痛みが出る前に、サインを出しています。

  • 投げたあと、肘を気にする
  • ストレッチを嫌がる
  • 全力投球を避けるようになる

これらは、体がブレーキをかけ始めているサインです。

 

保護者・指導者の方へ

子どもは、言います。

「大丈夫」「まだ投げられる」「休みたくない」

チームは、言います。

「今が大事な時期」「試合がある」

でも、体だけは嘘をつきません。

野球肘は、頑張りすぎた結果ではなく、成長と努力が重なった結果です。

誰かが悪いわけではありません。

だからこそ、冷静に立ち止まる視点が必要。

 

まとめ:野球肘から子どもたちの未来を守るために

  • 痛みがある → 一度投げるのを止める
  • 違和感が続く → 検査を受ける
  • 成長期 → 痛みがなくてもチェックを考える(野球肘検診)

「様子を見る」ことと、「放置する」ことは違います。

野球肘は、野球をやめさせるためのサインではありません。

今、少し立ち止まることが、何年後も投げられる肘につながります。

 

田中整形外科医院 院長 田中 秀

▲ ページのトップに戻る

Close

HOME