野球肘の話
野球肘:投げられるけど痛くない、それが一番怖い話
「投げたあと、ちょっと肘が気になる…」
そう言って来院したのは、小学6年生のピッチャー。痛みは軽く、キャッチボールもできる。試合にも普通に出ている。
でも、検査をすると――肘の中では、すでに異常が始まっていました。
野球肘とは
野球肘というと、
- 投げすぎ
- 使いすぎ
- 成長痛
そんなイメージを持たれがちです。
でも実際は、「成長途中の肘が、投球の力に耐えきれなくなった状態」これが野球肘の本質。
成長期の骨は、まだ完成しておらず、やわらかい。
そこに「全力投球」という大人と同じ負荷が、何百回、何千回とかかる。それが野球肘です。
投球時に肘に何が起きているのか
投球動作では、肘に3つの力が同時にかかります。
- 内側:強く引っ張られる
- 外側:押しつぶされる
- 後ろ:骨同士がぶつかる
同じ「1球」でも、肘の中ではまったく違うダメージが起きています。
この負担が積み重なり、骨・軟骨・靭帯に障害が起こります。
野球肘の種類
野球肘は、大きく3つに分かれます。
内側の野球肘
もっとも多いタイプです。
- 肘の内側が痛い
- 押すと痛い
- 投げたあとに違和感が出る
成長期では、骨が引っ張られてはがれること(剥離骨折)もあります。
外側の野球肘(特に注意が必要)
ここが、今日一番伝えたいところです。
外側の野球肘は、初期ではほとんど痛みがありません。
- 少し違和感がある
- なんとなく気になる
- でも投げられる
この状態で進行すると、骨や軟骨が壊れていき、元に戻らなくなることがあります。
「痛くなってから休めばいい」では、間に合わないケースがあります。
これが、外側型野球肘の怖さです。病名は、上腕骨小頭の離断性骨軟骨炎(OCD)。
後ろの野球肘
肘を伸ばしきる瞬間に、骨同士がぶつかって起こります。
- ボールを離す瞬間に痛い
- 肘の後ろがズキッとする
高校生以上に多く見られます。
「休めば治る」は本当か?
答えは、「半分は正解、半分は不正解」です。
確かに、早期であれば休むことで治る野球肘もあります。
でも、
- フォーム
- 体の使い方
- 股関節や体幹の硬さ
これらが変わらなければ、再発します。
肘は、「結果が出ている場所」であって、「原因そのもの」ではないことが多いのです。
見逃されやすいサイン
野球肘は、はっきりした痛みが出る前に、サインを出しています。
- 投げたあと、肘を気にする
- ストレッチを嫌がる
- 全力投球を避けるようになる
これらは、体がブレーキをかけ始めているサインです。
保護者・指導者の方へ
子どもは、言います。
「大丈夫」「まだ投げられる」「休みたくない」
チームは、言います。
「今が大事な時期」「試合がある」
でも、体だけは嘘をつきません。
野球肘は、頑張りすぎた結果ではなく、成長と努力が重なった結果です。
誰かが悪いわけではありません。
だからこそ、冷静に立ち止まる視点が必要。
まとめ:野球肘から子どもたちの未来を守るために
- 痛みがある → 一度投げるのを止める
- 違和感が続く → 検査を受ける
- 成長期 → 痛みがなくてもチェックを考える(野球肘検診)
「様子を見る」ことと、「放置する」ことは違います。
野球肘は、野球をやめさせるためのサインではありません。
今、少し立ち止まることが、何年後も投げられる肘につながります。
田中整形外科医院 院長 田中 秀
